20世紀クロスワード 解説裏話
解説裏話 その1、解説裏話 その2、解説裏話 その3、解説裏話 その4
解説は過激か?
解説については、偏向していると感じた方もいらっしゃるでしょう。特に、古池東風さんのような年輩の方には異和感があったと思います。私としては、定説にない部分をなるべくクローズアップしたいと思っていたのです。
乃木大将(ヨコ117)にしても、日本海海戦(ヨコ32)のところで取り上げた東郷元帥にしても、優れた人物であったことは確かだと思います。問題は、彼らを神格化して利用した側にあると思います。現在でも、東郷元帥は義務教育でとりあげるべき人物とされているのです。北条時宗もそのリストに入っているを見ても、そうした流れに待ったをかけたいと思うわけです。日本海海戦の勝利の大きな原因は「索敵」の成功にあると思うのですが、そうした陰の努力は次第に忘れ去られていくようです。
とにかく、「絶対」であるとか、「完全無欠」であるとか、「我々は無謬」であるとかいった言説には、危険を感じとるべきです。20世紀において「正義」の名のもとに、どれだけの人が犠牲になったことでしょうか。「原子爆弾」(ヨコ426)のところで書きましたが、私は平和・友好が人類の本来の姿であると思っていますので、排他的な考えには強く反発するのです。世界を国家間の生存競争の場と考えるのは、20世紀で終わりにしてほしいものです。国家というものは、お金などと同じように、人間がつくったものですから、それに隷属するのはおかしいと思いませんか。
いずれにしても「決めつけ」「レッテル貼り」「ステレオタイプの思考」を打破する必要があると思います。近ごろの日本の有様をみると、そうした思いは増すばかりです。自らを「無謬」だとして責任を認めない政治家や官僚や企業のトップは、早く退場してほしいものです。警察(ヨコ1646)のところで書きましたが、彼らのやっていることは「不祥事」(アンラッキーな出来事)ではなく「悪事」ではないでしょうか。
そうした点では、ステレオタイプの情報を増幅して流すだけのマスコミの責任も大きいと思います。自分で問題意識をもつ、自分で取材する、自分で考えるといった、基本的なことがないがしろにされているような気がしてなりません。
今回、解説を書く時の基本的スタンスとして、定説に疑問を呈し、「なぜ」ということを考えてもらえるように努力したのは、そうした風潮へのささやかな抵抗だと考えてください。
現在日本がうまくいっていない大きな原因は、失敗を前提とした方策が用意されていないことにあると思います。本当は失敗の後が大切で、失敗を繰り返さないこと、失ったものをリカバーする方法を講じることが重要なのですが、失敗の後のことを事前に考えるのは不吉だとするのが、日本人の特徴のようです。「失敗の後のことを考えるのは、自信がないからなのだから、自信がつくまで努力をしよう」というのが、日本では一般的な考え方のようです。これは「信仰」ともいえるもので、個人の生き方としては悪いことではないと思いますが、社会のシステムとしては不備だと言わざるをえません。
それともう一つ指摘しておきたいのは、「過去の成功にこだわる」ということです。これは、日本海海戦以来の大艦巨砲主義から、最近の公共事業で景気回復しようというのまで、一貫してみられることです。それに「希望が判断を狂わす」ということと、「ここで止めたら今までやってきたことがムダになってしまう」ということでダメだとわかったことでも続けるということ(これって、ギャンブルですっからかんになるやり方ですよね)が加わって、現在の危機的状況を招いていると思います。先入観にとらわれず、原点に帰って、「なぜ」「どうして」を重ねていくことが急務だと思います。
現在は不景気だと言われていますが、輸出超過は続いていて、石油や鉄鉱石や木材や食糧を輸入したうえに、外国から日本にお金が入ってきているわけです。端的に現在の経済状況を言えば、国民の働きによって外国から得たお金を政府が税金や国債という形で吸い上げてドブに捨てている(あるいは一部の者が私腹を肥やしている)ということになるでしょう。問題は、富の「不足」ではなく、「分配の不備」にあるのです。ところが、現在の政府や日銀の経済対策は、一時しのぎにすぎないか、問題を先送りにするか、あるいは事態を悪い方に進めるものかのどれかです。
とはいっても、日本の国際的競争力は、過去の設備投資などの遺産によるもので未来永劫続くものではありません。今なすべきことは、まだ儲かっているうちに、未来への投資をすることです。そしてそれが森首相の言う「IT」ではないことは、強調しておきましょう。
文句ばかり言っても仕方ありませんね。暗い話はそのくらいにして、未来への展望を語りたいと思います。解説を書いていて感じたのは、人間のすごさです。同じような過ちを繰り返すこともありますが、目を見張るようなことも少なくありません。
ライト兄弟(ヨコ27、先に補足したものを参照)やアムンゼン(ヨコ102)やリンドバーグ(タテ274)が成功したのは、「目的意識をしっかりもつ」ことと、先入観を捨てて物事の根本を客観的に見ることができたからだと思います。
また、アポロ11号の月着陸(ヨコ1006)の成功も、最後は人間の力によるものだったようです。無人のシステムではソ連の方が進んでいたのですが、アメリカは国家の威信をかけて月着陸一番乗りを果たすために、人間の能力に賭け、手動を基本として月着陸にトライしたわけです。20世紀の間に、ずいぶんと科学は進歩しましたが、最後は人間の底力にかかってくるのだと思います。もちろん、精神力だけでは何ともならないのも、20世紀の日本の歴史が証明していることですが。
最後に、激動の20世紀全体をながめてみると、大衆化と情報化と国際化の世紀であり、個人というものが表に出てきた時代だといえると思います。
21世紀には、グローバル化と情報化がますます進むでしょう。だからこそ「多様性」の尊重、「異文化」への理解が大切になると確信しています。私は、「弱肉強食・適者生存」の思想を進めることは危険だと思っています。「競争」を続けていけるほど、地球は広くはなくなっているのです。「弱者」を切り捨てていく社会には、未来がないと思います。
たしかな未来を切り拓いていくためには、氾濫する情報の渦の中でも近視眼的にならずに大局的にモノをみることがますます重要になっていくと思います。そして、付和雷同せず、地に足をつけた生き方をすることが求められるでしょう。そのためにも、自分の頭で考えることが重要になってくると思います。
(松坂史生)
読んでくださった方々、松坂さん、ありがとうございました。「20世紀クロスワード」は、最初考えていたものより、少々重い仕上がりになりました。でも、それは100年分の歴史の重さなんだな、と思っています。私が「21世紀クロスワード」をつくることはありませんが、100年後にそれがあったら嬉しいですね。どんなものなんでしょう?どんな100年になるのでしょう?
(清水眞理)