20世紀クロスワード裏話座談会

20世紀クロスワード制作委員会メンバーが、完成を果たした「20世紀クロスワード」を前に語るここだけの話。作者の留まるところを知らないこだわりの粋を垣間見よう。

基礎知識

●20世紀クロスワード制作委員会メンバー
真良碁=良・猪野裕靖(ひらやまひらめ=ひ)・石井圭司(KGEC=K)・鈴木政雄(古池東風=東)・吉岡博(ニコゴリ=吉)各氏&清水眞理(ま)・鍜治真起(起)

●キーワード=その時代にちなんだ言葉

●真良碁氏は言葉組の名人だがヒントをつけるのは嫌い。ひらめ氏はヒントの達人。そこでこの2人でコンビを組んで1901~1952を制作。

●その他は、1955~1974=ニコゴリ氏 1977~2000=KGEC氏 1953~1954、1975~1976=ま、がそれぞれ制作。古池東風氏には戦前~戦後の実体験などを具体的に聞かせていただきました。

初めに

「今日は久しぶりに20世紀クロスワード(以下20CC)制作委員会の方々にお集まりいただきまして、裏話なぞを披露してもらおうかなあ、と思ってます。20CCの最初の構想は、大勢の方に制作していただいて、それを委員会の方にまとめて貰う、というものだったんですが、まず委員会を結成したらそこで盛り上がっちゃってね。結局きれいに時代が流れていくようにするには、少ない人数で作った方が良い、ということになってこのメンバーだけで作ったわけです」

最初からつまずいている

「まず、集まって作戦会議をしようということだったんですよね」

「その連絡をもらったのは(2000年の)3月15日。この後すぐ最初のつまずきが発生します」

「えっもう?」

「最初の集まりが4月24日だったんです。4月の頭には集まろうという話だったんですけど、ここで3週間ムダにしている」

「後から考えると非常にもったいない3週間だ」

「ほんとにねえ」

「で、その1回目で総ページ数を決めたんですね」

「その前、2月に、ちょっとやってみてと言われてプロトタイプを作ったんだ。1年で1ページのものとか、2~5年で1ページとか色々やってみた」

ちょっとお披露目。これが幻の「1年1ページ」クロスワードだ。(1992年)

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「ヒントまでつけたんだよ」

「えっ、真良碁さんがヒントつけてるんですか?」

「1ページ分だけね。マスの数を決めるためにやってみた」

「本当はタテのマス数が9つは欲しかったんだけど。できるだけヒントのスペースが欲しいね、ということでタテ8マスにしたの」

「それでもヒントはずいぶん削りましたよ」

「やたら漢字が多くなったり句読点をはぶいたり…」

「次に集まったのは5月26日です」

「ヒントは後回しにして、まず言葉組だけしてもらった。その盤面を持ってきてもらったんだね。重複単語のチェックをするために」

「最初のころ私はヒマだったんです」

「そうか、まだヒントはつけないから」

「でも、5月16日に1901-1920の分は真良碁さんからもらったんです。そうしたら、どれをキーワードのつもりで入れているのかがわからない。もちろん、はっきりわかるのもありますけど。イギリスやギカイなんて、キーワードなのか、そうじゃないのか」

「後でこじつけられたらいいなっていうのも結構入れておいたんだ。それでますますわかりにくくなった」

「知らないものも多いんですよ。オノエマツノスケって誰? 聞いたら『目玉の松っちゃんだよ』って、知らないですよ、そう言われたって」

「目玉の松ちゃんは有名だけどなあ」

「あー、そうなんですか。他にもウルサガクっていうのが入っていて、私の知らない言葉だと思って聞いたら、これは単にウルサガタの書き間違いだった」

「それって、自分の書いた文字を読み間違えたんでしょ?」

「うん。ロシアカクメイのクとからませちゃったから、最後の文字はクじゃなきゃならないんだよ。結局ケンサヤクに変えたんだけど」

「ケンサヤクもピンと来なかったんです。相撲の検査役だって言われたけど、今は勝負審判ですから。わからない人も多いような気がして、妊娠の検査薬にしようかとも思ったんですけど、コバさん(ニコリスタッフ・小林茂)に聞いたら『国技だから大丈夫だ』って」

「無敵だなあ」

「20CCを思いついた人ですから」

「あ、そうなんですか?」

「うん。これはコバさんの企画なんです。さて、その2回目の会合で、かの有名なヘレン・ケラー事件が起きたのですね」

「有名って、ここにいる人しか知らないですよ」

「何それ?」

ヘレンケラーとハレー彗星

「ヘレン・ケラーが2回入っていたの」

「3回来日してるんだけど、1回目と3回目に入っちゃった」

「それでどうしたの?」

「最初に入っていたヘレン・ケラーはパーマネントになったんです」

最初の盤面

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組み直した盤面

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「同じ言葉が何回も出てくるのは、この20CCに限っては良いことにしよう、と思ってたんだけど、ヘレン・ケラーは目立ちすぎ」

「あ、ちょっとだけ自慢させてください。20世紀クロスワードを20CCって名付けたのは私です」

「あ、そうだそうだ」

「ハレースイセイは意図的に入れたけどね」

「最初から狙いましたから。ヒントもそうなっています」

「他にも組み替えたところって結構あったよね」

「さっきのウルサガクじゃないですけど、私も、スリガレスってのを入れたんです」

「何それ?」

「スリガラスのつもりだったんですけど、からむ言葉がイキダオレでスリガレスになってた。何か見逃しちゃったんですよね。うまいことガンダーラに差し替えられて良かった良かった」

「真良碁が自分の字を読み間違えるのはわかるんだけど…」

「うへへへへ」

「…イシイクンでもあるのね。でもガンダーラは、時代もちょうどあっててきれいに直ったよね」

「完成品に2回出てくる言葉で、1番長いのって何?」

「それはですね………さあ、みんなで考えてみよう」

「わからないんですね。すぐには」

「クイズにしようよ。正解は次回の座談会で発表します」

「カサギシズコ事件もありましたね」

「あーあー」

「ああ、あれ」

「何です?」

「本当はカサギシヅコなのにズで入れちゃった。そう書いてある資料もあったんだよ」

「それも、もう全部できあがって、お疲れさまでしたって言った後ですよ。発覚したのは」

「私が見た資料もズだったんだよー。1冊しか見ないところで、私がいかにザルな人間かが証明されますねえ。その後トオルちゃん(ニコリスタッフ・溝口透)が解いて、ヅと書いてある資料の方が多いですって」

「緊急連絡-今頃言ってすみません。カサギシヅコでした。ヅのところは2文字なので適当に変えてくださいって、メールが来たんです」

「ひどーい」

「ごめーん」

「どう直したんですか?」

「小津安二郎のオヅにした。ヅで終わる2文字なんて人名しか無いんだもの」

「日本人はフルネームで入れる、という密かなこだわりがくずれちゃった」

「でも、小津は入って良かったよね。まるで入ってなかったら寂しい」

「そりゃそうですけど…、でも、代表作を作った年じゃないんですよ。まあ、そこまで望んだらバチが当たるかなあ。現役時代に重なっただけでもラッキーだった」

アインシュタインも何もしていない

「他にもいかにもキーワードっぽく入っているんですけど、微妙に時代がずれているものが結構あったんですよ」

「特使とか金本位とかね。特使はもうあのころ(1931~1935)は全権大使になっていた」

「でもうまいヒントがついてるよね」

「金本位はね、日本が金本位制を復活させたのは1929年だったんだけど、1921~1925に入れちゃった」

「移りつつある時期だと思うんだけど、ハッキリしたことは書けないんで」

「何か微妙な表現をしたよね」

「ゆらいだ時期」

「うまいなあ」

「ヨコ67の裸体も…」

「えっと、それは1906~1910に入ってるんだね」

「ええ、黒田清輝の裸体画にしたかったんですけど、その事件はそれより少し前なんです。1895年かな。アインシュタインもね、1916~1920に入っているんですが、この間には特に目立ったことはしていない。別の年ならもっと色々書けたんだけど」

「いや、絶対入れなきゃいけない人だと思ったから、どこかに入れなくちゃと」

「確かに何でこれが入ってないの? というのは結構ありますよね」

「うん。まあ、すべてを、というのは無理だし、人によって大事な事柄も変わるし」

「でも、ボク思うんですけど、これだけは必ず入れよう、というリストは最初にあった方が良かったんじゃないですか」

「そうだね」

「そうだね。あ、すみません。私が悪いんだ。できるだけ、作者の方の感性を尊重したいと思って、規制は極力しないように…と思ったんだけど、確かに最低限のものは必要でしたね」

「私は後半を担当したんですけど、歴史的な事柄より、身近な出来事を入れるようにしましたよ」

「あ、僕もそうだ。むしろサブカルチャー中心にしたんだ」

「現代なので記憶も生々しいし、その方が面白いと思って。最初にB級のものを入れていいですか? って聞いたんですよね」

「うん。じゃんじゃん入れてくれって言ったんだけど、考えたらB級って線引きが難しい」

「そのときは盛り上がっても、すぐにみんな忘れちゃうものが多いからね」

「まあ、読んで『ああ、こんなこともあったねえ』と思い出せれば良いかな、と。ナメネコとかエリマキトカゲとか」

「青函トンネルは入れたんですけど、年代が決めにくかったんですよ。いつをもって開通とするのか資料によってまちまちで」

「本坑開通と、鉄道が通ったときとで違うんだな」

「資料によって違うのって多いよね。洞爺丸の亡くなった人や行方不明の人の数も色々だった。当時の新聞発表そのままのものと、後から追っかけたもので違ったりするんだろうけど」

「資料の食い違いといえばですね」

「はい」

「ハチ公(ヨコ304)の最後は、私の見た資料では剥製にされて国立科学博物館にいるって書いてあるのに、真良碁さんからは、こちらの資料では埋葬したことになっているって」

「剥製ありますよ。確か」

「墓はあるはずなんだ。首輪だけ埋めたのかな」

「ベルリンオリンピック(ヨコ351)のメダルの数も違いましたよね」

「そうそう、18個と20個。やっぱりトオルちゃんが見つけたの」

「あわてましたよ。そんな物の数が資料によって違うなんて」

「芸術種目を数に入れるか入れないかの違いだったんだ」

「芸術種目なんてものがあったんですね」

「あったんだねえ」

思い入れのあれこれ-ソーサも入れてくれ

「私は悲惨な出来事はあまり入れたくなかったんです。オウムだけは、はずしちゃいけないと思って入れましたけど」

「そうだね。オウムはね」

「2000年はさ、後半いろんなことがあったんだよな」

「何たってオリンピックでしょ」

「それでも、印刷屋さんに渡した後の出来事はあきらめもつくけど」

「微妙な時期に色々ありましたよね」

「皇太后崩御とか雪印とか」

「どこかにミルクが、せめてウシが入らないか、と盤面を眺めたんですけど、ダメだこりゃ…」

「2000年クロスワード、今からつくったら?」

「ちょっと考えたんですけどやめました。大変だから」

「ところで、前々回のクイズの答えは何なのかな?」

「あ、いけない、答えてなかった。それはタカラヅカです」

「そうだそうだ。それで私のところのタカラヅカは宝塚記念にしたんです。競馬の。武豊がらみで」

「イシイさんのヒントって、スポーツに関するのはアッサリしてますよね」

「全然興味ないんですよ、スポーツって。どうも大事なことらしいから、入れないわけにはいかんかなあって、無理矢理入れてるから。マグワイアだってバイアグラとからめられるから入れたんです」

「そのマグワイアのヒントにソーサが入ってないんですよ」

「許し難かった?」

「いやー、それはないんじゃない? ってところですけど」

「私もスポーツはあまりピンとこないんで、ひらめちゃんに言われて、あー、そう言われりゃそうかーって。それで解説で書いてもらった。逆に解説で取り上げたいから、ヒントに加えてくれって要望も解説のかたからあったし」

「加えるならまだしも、勝手に変えられたところがあって、あれは許し難い」

「あ、ごめん」

「ハレンチという言葉を入れたんだけど、ボクは破廉恥の本来の意味を逆手にとった生き方というのを評価して『羽目の外し方がむしろカッコいいという意味あいで流行した言葉だった』というヒントにしたのに、ボクの嫌いな認めていない永井豪のハレンチ学園のヒントに変えられた。あれはひどい」

「すみません。本来は作者の方に差し戻さなくちゃいけない。『ハレンチ学園』は時代的にはずせないものだと、解説のかたに言われて、私もそうだなと思いまして…今後はこのようなことはしませんので。いやー、言い訳しちゃうと、印刷屋さんに渡すのが最初に予定していたのより2週間も早まって時間切れになってしまって…製本がね、すごく大変で通常の倍は時間がかかってしまった」

「貼り合わせるのが大変だったんですよね」

「うん。普通ああいうひとつながりの本は、大体イラストか経本なの。イラストは少しくらいずれても目立たないように描いてあるし、経本はつなぎ目が白いから問題ないんだけど、20CCはケイ線をつなげなくちゃならないから、それはそれは神経をつかったんだって」

「きれいにつながってるもんなあ」

入れなきゃよかったオオエケンザブロウ

「それにしても、これは相当大変だったでしょう。つくるのは」

「組むのは意外に楽でしたよ。ジョイントは大変だったんじゃない?」

「1951~1952の枠と1955~1956の枠を他の人が先につくって、その間をつなげたんでしょう? よくつながっているよ」

「後半は1973~1974と1977~1978のところだね」

「いや、それも思ったよりは大変じゃなかったですよ。5文字(フウセンガムのウセンガム-ヨコ566)と4文字(オオヤマヤスハルのヤスハル-ヨコ558)がはみだしているのを見たときはどうしようかと思ったけど」

「ワハハハハ」

「そこをつなげたら、あとは結構いけました。ガジュマルのおかげだね」

「黒マスが対称じゃなくていいっていうのは、楽でしたね」

「今回に限っては、そこにこだわるより、少しでも沢山キーワードを入れて欲しかったから」

「でもさ、横長でキーワードは入れやすいんだけど、注意しないとヨコにばかりキーワードが入っちゃうんだよ」

「そうそう」

「えっ、わたし結構タテにばかり入れたよ。そうか、私のところはヨコは左右から伸びてきて制約があるから」

「あやうく黒マスで分断されそうなところもありますよね」

「もう、指1本でつながってるような…。本当はこういうワクは良くありません。お手本にしないでくださいね」

「ひらめちゃんに言われて直したところもあるんだよ」

「分断されそうだって?」

「うん」

ちょっとお披露目。これが修正前の枠。

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そしてこれが修正後。

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「オモワクの辺りの風通しが良くなったんだ」

「ちょっと、気になったもので…」

「私オオエケンザブロウって入れたんですけど、1992~1994に。途端に組みにくくなったんです」

「エもケもザも使いにくい文字だもんなあ」

「苦労しましたよ。あそこは。入れなきゃよかった」

「できあがったのを見ると、きれいに組めてるけど…確かに黒マスが多い」

「でしょ」

「それぞれ、これだけは入れようって決めてた言葉ってあるの?」

「最後の言葉はミライにしようっていうのは決めてました」

「最初と最後の言葉は良かったね。世紀、世界で始まり、予言、未来で終わる」

「この本のテーマがスッキリ出てますよね」

「最初はセイキ、も決めてたんだ。ひらめちゃんがうまいヒントをつけてくれた。ぜひ入れたかったのは斎藤隆夫と杉原千畝だな」

「サイトウタカオって最初はゴルゴ13のサイトウタカオかと思った」

「あ、違うんだ」

「政治家なんです」

「あと、伝記によく出てくる人物はなるべく入れようと思ったんだ。シュヴァイツァーも入れたかったんだけどさ、彼は入らなかった」

「わたしは、女性ネタをなるべくたくさん入れたいな、と思ったの。ボーボワール(タテ607)なんてかなり無理してこじつけてるけど」

解説は過激か?

「解説は爆発してたんですよね。ボリュームが」

「どれもこれも最初は倍の分量書いてあった。私の後半の時間は、これをいかに縮めるか、に費やされました」

「ボクはアムンゼンの解説で、(最初の解説にはあった)北極を目指していたのに、出航してから目標を南極に変更した、ってところは残しておいて欲しかったですよ。180度の変更なんですよ。何があったのかと思って、本多勝一のこーんな厚い本(親指と人差し指の間4㎝程)1冊読んだんですから」

「うわあ」

「いや、すごい。ひらやまさんの熱意はたいしたものだ」

「ボク、好きみたいです。調べ物をするのって」

「そのお言葉に甘えっぱなしで」

「家に帰るとひらめちゃんからメールがきてるんだ。これはこういうヒントでいいですか? とか、これを調べてくれとか」

「ボク、寝る前にメールを送るんです。そうすると、翌朝返事がきている」

「えっ、真良碁はいつ寝るの?」

「大体いつも3時~4時くらい。夜中だからインターネットで調べてさ、ひらめちゃんに返事を書いてから寝る」

「うまいこと生活時間がずれてるんだな」

「インターネットとメールがあって良かったよ。ほんと」

「そうだねー。無かったら倍以上時間がかかった」

「私は取りかかる前に、まず新聞の縮刷版を見ましたよ。そうしたらほとんど毎年『世の中の何かが狂ってきた、そう思わせる一年だった』という意味のことが書かれてる。狂ってるのは記者の視点だと思うんだけど」

「決まり文句なんだな」

「ひらめさんが言ってた『戦争が終わってから大阪万博まで(1945~1970)より、万博から現在までの方が時間がたってる』っていうのは新鮮な驚きでしたけど。何となく逆だと思ってたから」

「私も」

「僕は戦前の教育を受けて、教育もした人間だから、僕から見ると解説は左翼的というか、そういう見方もあるだろうが、そうじゃないこともあるんじゃないかと思っちゃうんだなあ」

「当たり障りのないことを書くよりはいいと思いますよ」

「うん、自分で考えるきっかけになってくれればいいな、と思って。確かに異論を唱える人も多いと思うんだけど、あえてこれで行こうとね」

「ただ事柄が並んでいるのよりずっといいよ」

「反論が山ほど来るのは覚悟してたんだけど」

「全然来ない?」

「今のところ」

「読んでる人少ないんじゃないですか」

「そうかも。解説のかたにも今度何かコメント書いてもらおうかな」

「私、解説を読んだら、自分がものすごく深いことを考えて、盤面を組んでキーワードを入れていったような気分になれましたよ」

隠れキーワードを探せ

「他にも今だから言おうっていうの、まだあるんじゃない?」

「隠れキーワードがありますよ」

「何それ?」

「1931~1935のところにシキボウが入っているんですけど」

「うん」

「ヒントは『岩城宏之、山本直純、小澤征爾が仕事で振るもの』だよね」

「その3人、1931~1935の間に生まれてるんです」

「へー」

「へー」

「生まれた順に並んでるんですよ」

「へー」

「へー」

「私は結局キーワードにはしなかったんですけど」

「うん」

「ヨコ1352のルビのヒントが」

「『土耳古にはトルコとふります』だね」

「ちょうど特殊浴場の名称がソープランドに変わったころなんです。トルコ人の抗議で」

「おう」

「色々考えて結局キーワードにするのはやめましたが。あと、最初に話してたのに使わなかったの、ありますよね。クウとシコ」

「クロスワードで便利使いされる言葉だから、きっと何回も出てくるだろう、と予測して。ひらめちゃんが言い出したんだよね」

「川上のバットが切りました。長島のバットが切りました…」

「大鵬が踏みました。若乃花が踏みました…」

「へええ」

「双羽黒が踏みました、はオカミサン」

「何それ?」

「その時代に活躍した選手や力士が出てきて、良いヒントになると思ったんだけどねえ」

「結局入ってないんだ」

「うん」

「ところでさ、入っている全言葉の中で一番難しいのはカクカ(格花)だよね」

「何を突然…入れたのは私ですが」

「ああ、あれは難しいなあ。全部解いた中で、あれだけ知らない言葉だった」

「古池東風さんには解いた感想を細やかに聞かせていただいたし、ヒントをつける前にも、入っている言葉にまつわるその時代のエピソードなどを書いていただいて…あんまりいかせなくて申し訳なかったんですけど、心強かったですよ」

「トーチカが男女の仲という意味でも使われた、なんて新鮮でしたよね」

「?」

「遠(トー)くて近(チカ)きは男女の仲」

「へえええええ」

「ところでカクカってどういう意味でしたっけ?」

「盛り花より格式のある、というような生け花の世界の言葉…だと思う」

「知らないよ」

「生け花やってる人ならわかると思うんだけどなあ」

「何で入っちゃったんですか」

「酒田の大火(カサイで入っている)と『私つくる人ボク食べる人』(カジで入っている)をどうしても入れたくて。クは前から伸びてくるチョウノウリョクのクだからどうにも変えられないし」

「キーワードは少しでも増やそうと思いますよね」

「そうそう、短い言葉だと何かこじつけられる気がするし」

「1番惜しかったのはオシかなー」

「何です? 何です?」

あと少しで除夜の鐘

「1926~1930に入ってるんだけど、押し相撲でそのころ活躍した力士はいないかなあと思って探したんです」

「うんうん」

「はず押しの名人、栃木山がヒントに使えるかと思ったら、何と1925年に引退している」

「おお」

「ところが、その後、年寄春日野として全日本相撲選士権に出場して優勝しているんですよ」

「栃木山が? すごい」

「それが1931年なんです」

「きゃあ」

「ひどいでしょ? あ、でもノーベル賞は便利でしたよ」

「?」

「『レントゲン、ノーベル賞の――号に』」

「答えは何なんです?」

「イチ。1号のイチ」

「他には? 他には?」

「『パブロフの――のイワン・パブロフ、この年ノーベル賞受賞』」

「それはイヌですね」

「そう」

「へー、キーワードになってるなあ」

「私もスペルのヒントで、ちょっとくやしかったんですよ。確かクエール副大統領がポテトのスペルを間違えたのがそのころ(1989~1991)だと思って調べたんですけど、全然資料が見つからなくて正確な年を入れられなかった」

「昔POT8OS(ポットエイトオーズ)っていう競馬馬がいたんだけどさ、馬主はPOTATOS(ポテイトーズ)って名前のつもりだったんだ。それをPOT、8オーって聞き間違えて…(競馬話に脱線)」

「キーという言葉も、原稿締め切りの2日前に思いついてねじこんだんです。クロスワードが発表された年だって気づいて。カジさんの巻頭言にも書いてありましたけど」

「うん」

「あれ、初版ではジャーナルのつづりが違ってましたよね。rが抜けてた」

「それも含めて2刷りで何と106カ所修正した。惜しい、あとちょっとで除夜の鐘だってハカタさん(印刷屋さんのニコリ番の方)に言われてしまった」

「主に解説を直したんだよね」

「金券政治とかね。ショップじゃないんだから」

「校正の段階で、職業野球の解説のところを読んだら、7球団って書いてあるのに球団名が6つしかない。まりさんに言ったら数字の方を直して6にしちゃったんだけど…」

「本当は7球団で1つ抜けてたんだ?」

「……エヘ………(言い訳の仕様もない)。あ、増刷分ではちゃんと7つ球団名が入ってますので」

「間違い探し106カ所、初刷りと2刷りを比べてみよう!」

「あ、それいいなあ…なんて言ってる場合じゃない。ごめんなさい」

「私の名前も違ってたんだよ」

「あーすみませーん。初版では何をトチ狂ったか鈴木義雄さんにしてしまった。もう私はこんなに増刷を待ち望んだことはありません。できて良かったなあ」

「増刷するほど売れたんですか」

「注文はあったんだよ。だから増刷の意味はあったんだ」

「売れたかどうかはまだわからない?」

「返品も無いからね。本屋さんが抱えてくれてる」

「これは良い本だよ。みなさんすごいものをつくったよ」

「新聞や雑誌が面白がってくれて、結構取り上げてくれたんだけどね。本屋さんに並ぶと意外に迫力が無いんだよな」

「普通の本に見えるものね」

「今度は巻物にしない?」

「私、デカビロもいいかなと思ったんだけど」

「せっかくのノウハウなんだから、これをいかしてこのまま第2弾もいいと思うけどさ。何にしてもやろうよ。次」

「そうだね。ぜひ」

「今度は時間に余裕をもたせましょうね」

「はーい」

クロスワードの未来形態

「クロスワードってさ、もっと変化しないの?」

「はっ、これはこれで完成されてる形だとは思うけど、最終形態かと言われると」

「何かあるんじゃないのか」

「うーん」

「単なるバリエーションじゃない何かねえ…無いと決めつけちゃうのは面白くないね」

「うーん」

「ちょっとずれますけど、この前久しぶりにすごいクロスワード見ましたよ。注釈ついててこれは濁点を入れないでくださいって書いてあるんです」

「へっ?」

「ヨコが寒冷化(カンレイカ)で入っているのに、タテは魚河岸(ウオガシ)なんです」

「カとガがからんでるんだ。で、タテの方に濁点を入れるな、と。ウオカシにしろと」

「あ、いいなあ、それ。全部に注釈がついてたら面白いよ」

「いいわけクロス。つくってくださいよ」

「ここは長音ははぶきます、ここは全部に濁点を入れてください…」

「できたら面白いですね」

「ニコリのクロスワードはちょっと行儀が良すぎるかもしれない。もっと破天荒なのがあってもいいよね。そういうことやってるうちに、何か劇的な変化があるかもしれないし…」

「じゃあ、今日はどうもお疲れさまでした! これからもよろしく!」