小笠原紀行・その5
12/6AM ジョンビーチ
朝方、小港海岸へ散歩。かるく通り雨に降られる。
群馬勢とともに朝食。話によると昨日、群馬勢のうちの男性がジョンビーチよりも向こうのジニービーチまで行ってきたという。あのおじさんに行けるなら、まあ大丈夫だろう。よし、今日はジョンビーチへ行くのだ、と決定。
本当は三点セットでも借りてきてジョンビーチでシュノーケリングをしたいのだが、それらの装備をかついでいくのは大変そうである。ザックは持ってきてない。ボディバッグだけだ。シュノーケリングは断念。ただし泳ぐだけなら可能だろう、と昨日同様海パンの上からTシャツショートパンツ。足裏の保護のため靴下を履いた上でスポーツサンダルを履いて出発。
とはいってもまずは原付で扇浦まで行って弁当を買い、そこから引き返して小港海岸のバス停まで走り、原付を駐車して、ここから本当の出発である。8:30。
いきなりジャングル風の山道。しかも急坂になる。岩の山道。最近自転車ばかりで歩いていなかったから膝がちょっとつらいなあ。だんだん高くなる視点、背後に枝をすかして見えてくる小港海岸。
前方に人影。昨日のホエールウォッチングツアーに居た女性だった。軽く挨拶し、追い越して先を急ぐ。山道で挨拶されて安心できる顔じゃないしねえ当方。息をはずませて山道を行く。
前方に見えだす中山峠の尾根。なるべく周囲を見ないように地面に視線を落とし、いや実際は疲れていたからなのだが、峠へ到着。
背後に蒼い海とコペペ海岸・小港海岸。右手に岬。左手には衝立山へ続く亜熱帯林。そして前方にはブタ海岸、そしてジョンビーチへ続くであろう蒼い海の広がり。白い陽光。風が吹き抜け火照った体を涼めていく。
情報にあったように、思わず声が出た。
尾根道を歩く。ヤギの糞がそこここに。群生してるようだ。尾根道は次第にブタ海岸へと続く下り坂になっていく。ブタ海岸には静かに波が打ち寄せていた。足を取られ歩きにくい砂浜を進み、またジャングルへ。
アップダウンが激しい。息が切れる。数十mの尾根を3度ほど越えていく。オカヤドカリを見つけたり、鳥の声を聞いたり、気をまぎらわせながら歩く。暑い。山道を曲がったらヤギと鉢合わせをして驚いたりしながら、1時間半えっちらおっちら。
ついにジョンビーチへ到着。誰も居ない。竜舌蘭の生い茂る白い浜を見ながら、ただただ深く息をつくのみだった。
ショートパンツを脱いで、膝まで海につかってみる。水温は低い。これはウェットスーツなしで泳ぐとつらそうかもしれないなあ。海中には岩も多いし。磯で遊ぶことにし、岩づたいに歩く。
でかい蟹が逃げていく。タイドプールには小さな魚が泳ぐ。カレイらしき姿も見られた。波しぶきで濡れた岩の表面にエビのようなものが跳ねてるな、と目を凝らすとトビハゼだった。
1時間ばかり楽しみ、ふと背後を見ると、いつのまにやら浜には男性二人連れが来ていた。自分の独り占め時間が終了した残念さと、他人の視線も知らずに遊んでいた気恥ずかしさと、十分に堪能した満足感とを味わいながら、帰り支度を始める。楽しかったよ、ありがとう。
行きに出会ったのと同じ場所で今度は山羊の群れ。薮の中へ逃げながらもこちらをうかがっている。写真を撮りたいが撮らせてはくれない。
山道を歩くうちに、酷使したせいだろう、だんだんと足裏が辛くなってくる。すでにマメはできているようだ。さらに坂で不注意な下り方をしたせいで、左膝がはっきりと痛みだす。倒木の枝で杖を作る。上り坂は身体が辛く、下り坂は膝が辛い。ペースを落とし、注意して進む。
12時、高山分岐の休憩所にて昼食。影を探して腰かける。汗でびっしょりのTシャツを脱ぎ、日なたに干す。弁当はお握り二つと香の物。疲れた身体にしみいる滋養。裸の上半身に風が心地よい。弁当を食べる十数分でTシャツはあらかた乾いていた。南国の日差しの強さと湿気のない風のおかげだ。
ブタ海岸へは下り坂ばかり。膝に気をつければ体力的には楽。海岸の砂が思いのほか体力を奪う。よろけながらも風景に見とれていたら、入るべき小道を間違え、海岸の灌木林を10メートルばかり突っ切る羽目に。枝にからまりながら悪戦苦闘し本ルートへ。
中山峠へ到着。今度は景色を見つつも疲労困憊で声も出ず、ため息をつくばかり。やれやれ、運動不足を露呈しているなあ。持ってきたお茶の残りを飲み干す。ああ、おいしい。
中山峠から降りて行く途中で、今朝方追い越した女性を前方に発見。なにかを注視している。視線の先を追うと、山羊が居た。山羊を驚かさないように足音をおさえ、でも女性がこちらに気づく程度には音を立てつつ降りていく。いや、山道でいきなりわたしのようなのに声をかけられたら、たいがい驚くだろうし。少なくともわたしなら驚く。彼女に声をかけ、しばらく山羊を鑑賞した後、小港海岸バス停へ向かう。彼女はブタ海岸で遊んだ帰りだそうな。
コペペ海岸へは遠いのだろうか、と聞かれる。どうも遠いようである、と答える。わたしも行ったことがないから判らないが、車の入れる道はなさそうだ。彼女はバスで小港まで来ているので、コペペへむかうのはちょっと大変そう。
小港海岸を見ていく、という彼女に、海を背景に写真を撮ってあげる。そして原付にまたがり小港を離れる。妙齢の女性をふって遊びに行く大野暮野郎である。